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山口幸士 Koji Yamaguchi Vol.3

artist / painter


Photo: Taro Hirano



ー今描いているぼけている風景のシリーズはどうやって描いているの?写真に収めてそれを描いているの?あと、僕が作品を見ていて絵のコンポジションがとても独特でいいなって思うんだよね。よく言えば個性的、悪く言うとなんだか変というか。もちろんそれがいいんだけれど。微妙にクルマが入り込んでいたり。写真に収める段階でもそうやって撮影しているんでしょ?

Y:そうです。写真を撮るとき一度メガネを外すんです。そうするとそこに何があるのかがわからなくなるんです。もちろんメガネを通して見てから外すのでそこに赤いクルマがあるのはわかっているんですが、外すとその赤いクルマが気にならなくなるんです。


ーなるほどね、ふつう街の風景とか、例えば写真撮るときにきれいな緑の景色があって、でもその手前に赤いクルマが停まっていると、あれ邪魔だなー、どいてくれないかなー?とか思うじゃない?


Y:そうなんですよ。メガネを外すことでそのクルマという認識をなくすんです。それをただの色の配置としてしか見ていないんです。



ー視力が悪いって、悪いことだけではなかったね、笑


Y:ほんとですね。自分の表現方法になりました、笑。ぼかすことでそれが曖昧になって、ディテールではなくなって色の配置で切り取るんです。例えば窓のシャッターの緑と右下の紫っぽいのとその配置でしか見えなくて。その配置の仕方というのがその前に描いていたグラフィティのパッチワークの作品と一緒なんです。アレも街の壁の断片を貼り合わせているんですが。ベージュとグレーと空のブルーそれにクルマの白があるみたいな。メガネをかけて見れば、草とか海とかわかるのでもちろんそれを要素として認識していますが、そうやって写真を撮るときは色だけで見ています。

僕が影響を受けた画家、ジョルジョ・モランディが話していた言葉がしっくりくるんです。イタリア出身の静物画を描く人なんです。「私たちが実際に見ているもの以上に、抽象的で非現実的なものはない」って言っていたんです。どういうことかというと、例えばコップを見たときに、コップという概念をもって見ているからコップに見えるんですが、その概念を外した時に違ったものが見えてくるというか。僕の場合メガネを外したときに、その背景にある本質のようなものが見えてくる感じがするんです。


ーオリスタの本棚からジョルジョ・モランディの本を見させてもらったけれど、なにやらたくさんアンダーラインが引いてあるね。


Y:例えばスケーターが街を見たときに階段が遊び場に見えたり。本来とは違う捉え方で。モランディが言っていることってスケーターが感じていることと似ているのかなって思ったんです。僕も街を見るときに当たり前を外すんです。その物の概念を外してみるとぜんぜん違った違う物に見える。モランディは同じような絵ばかり描いているんですよね。赤瀬川源平さんも路上観察学とか街の新たな見方とかスケーターっぽいなって。


ーオリスタの中でずっと自分はスケーターだっていうアイデンティティがあるわけで。一番最初は直接的なスケートスポットという風景をテーマに描いて。アイデンティティの考え方とそれを絵に落とし込みの方法が少しずつ変わってきているんだね。スケーターというアイデンティティを自分なりに納得したカタチで絵を描き続けているんだね。


Y:僕はスケートボードを表現したいのではなくて、スケボーをしていて感じていた魅力を落とし込みたいんです、考え方が入っていたら、表面的なスケボーが入っていなくてもいいなと。


ーオリスタのバックグランドを知らない人が絵を見たらアブストラクトっぽく見えるものも多いけれど、実際はすごいリアルな物の表現をしていて、これまで描いてきた作品に共通しているように僕には感じたよ。それってすごいスケーターっぽいのかなと。初めは座り込んで描いていて描いている間にその場にいる人たちと交流したり、その場に落ちているゴミを拾って作品に落とし込んだりとかって。絵を描く体験を表現しているみたいに見えてそれがいいなって思った。最近は写真に撮ってそれを自分の場所で描いているんだね。


Y:そうです。最近は「記憶」に興味があって、写真は「記録」なんですよね。自分の記憶もあってその瞬間見えた物を描いているんです。幼少期のことを思い出すと自分が見た視点ではなく、自分を誰かが見ている視点からでしか思い出せないんです。でもそれってあり得ないじゃないですか。過去に見たアルバムの記録写真と記憶が混合して勝手に記憶を作っているんです。そういう記憶って不思議だなって思って。なので写真の記録と自分の曖昧な記憶の中間みたいなものをすごく意識して描いています。ぼけているのもそれだからなんですよね。


ー突然だけど、好きな画家は?


Y:ジョルジョ・モランディとあとバリー・マギーも好きです。バリーはストリート出身でいまだに街中にも描いていて。自分がストリートで体験した物事を翻訳してギャラリーで展示して、グラフィティをやっていない人にもうまく伝えていると思うんです。過去の表現者をオマージュしつつも、グラフィティでの経験をうまく表現していると思うんです。グラフィティというカルチャーを知らなかった人にも伝えているなと。いまだに街にも描いているし。


ー好きなスケーターは?


Y:ゴンズ(マーク・ゴンザレス)はずっと好きです。90年代のイーサン・ファウラーも好きです。派手なトリックはやらなくてオーリーと180くらいで。でもかっこいいんです。


ー今は他に仕事してる?


Y:いや、絵だけでやっています。個展で販売した売り上げとかコミッションで生活しています。あとは直接作品を買ってもらったり。




ーどこか企業とかから仕事のオファーとかはある?


Y:以前は洋服のグラフィックとかコラボしていたのですが、最近は自分が表現したい物をキャンバスに描いてそれを販売しています。ここ1年半くらいですね。アパレルに落とし込んでいただく良さもありますが、今はキャンバスに向き合いたいんです。なのでせっかく頂いたお話ですがお断りしちゃっています。


ーおおっ、断ってる!


Y:は、はい。断るのめっちゃ勇気いるんです。お金もないですし。

ーオリスタはそれで良いと思うよ。今はこの自宅のアトリエで作業しているの?


Y:そうです、あと自転車で近所をまわったり。靱帯が切れているので、スケボーはいまだにできないので。日常生活に支障はないのですが。スケボーできないのにスケートスポットを描くのはちょっとなって思ってしまって。そこから4年くらい描いていないです。プッシュもちょっと怖いですね。


ーそうなんだね、チャリではどこを廻っているの?


Y:片道20キロ範囲でいろいろ廻っています。写真を撮りながら。常に発見ですよ。この道を通ると、こんなところに出るんだ、とか。今はチャリと徒歩のスピードが良いんです。急にとまることもできるし。

ー絵を描くこと以外に興味のあることは?


Y:自転車をいじったりするくらいかな?あまりないかもですね。本も読むんですが、自分の絵に生かせられる本が多いので、やっぱり絵を描くことが好きなんですね。

ーモランディの本にもたくさんアンダーラインが引いてあったからそれはよくわかったよ。コロナになってから絵を描くことや生活の中で考えが変わったりしたことはある?


Y:当たり前とされてきたことが、当たり前ではなくりました。展示をしても人を集められないし。展示をすること自体も積極的にできなかったり。制作活動はできるんですが、表現の仕方は考えさせられます。なので野外で展示をやってみたんです。去年やっていた山梨のギャラリートラックスでも外に展示してみました。パッチワークのシリーズも街中に貼りっぱなしにしてみたり。それは盗られようが何されようが自由にって感じで。そしたら友だちがその作品を持っていたりしたんですけれど、笑。そういうことを試しています。


ー絵は売れてる?


Y:コロナで逆に売れてます。家にいることが多いから飾れる物が欲しかったんですかね?前回の展示ではコレクターの人とかいろいろな方が買ってくれました。前回のトラックスは見に来てくれた人は少なかったんですが、多方面につながりが広がりました。都内ではない場所でやりたかったんです。反応も見たかったですし。思っていた以上に見に来てくれました。見たい人は遠くても見に来てくれるんだなって。山梨くらいだと東京の人も日帰りできますし。場所も良くて、自分ものんびりできました。外に展示した作品も散歩代わりに歩いてもらって。自然を見ながらその場所も体験できますし。


ーこれからの予定とか夢とか?


Y:スケボースポットをぼかして描いたりもしてみたいって思っています。スポットなんですが、わからないくらいぼかしたり。最初にやっていたことと今やっていることを融合させるのも面白いなと思って。しばらくは今の方法で色々と描いていって、その中で決めていこうかなと思っています。


プロフィール

山口幸士

神奈川県川崎市出身

街を遊び場とするスケートボードの柔軟な視点に強く影響を受け、

日常の風景や身近にあるオブジェクトをモチーフに

ペインティング、ドローイング、コラージュなど

さまざまな手法を用いて独特な視点に転換する。

2015年から3年間、ニューヨークでの活動を経て現在は東京を中心に活動している。 kojiyamaguchi.com

Instagram: kojiyamaguchi_orista

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