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西山徹 Tetsu Nishiyama Vol. 1



コロナになって生活の仕方、仕事のやり方ががらりと変わった。僕が仕事としている編集/ライター業と平行に友だちとやっていたシルクスクリーンでのTシャツ作り、それまでは空いた時間に作って友だちのお店で売ってもらう、みたいなペース。その活動を去年の自粛期間になって本格的にやるようになった。本業がひとつ増えた感じ。ずっと先延ばしにしていたウェブストアも立ち上げ、自分たちのサイトから販売を開始。直接お客さんに販売するようになり、それまでとは違って多くのことをやらなければいけないとわかる。


以前のようにプリントして段ボールに詰めて卸先に納品したら終わり。ではなくなりむしろその先、それこそが大切なんだなと実感する。ウェブサイトの管理、商品の撮影、販売のタイミング、作った商品を友だちに着てもらって撮影をしたり。自分たちがやっている活動を多くの人に知ってもらうにはどうしたらよいのか?ということをすごく考えるようになった。インスタグラムでの宣伝、お客さんへの対応とか。僕たちらしい梱包の仕方は?送料を考えながらその方法を考え直したり。買ってくれたお客さんが届いた箱を開ける時どうしたらワクワクするかな? このパンデミックの中ファッション業界も大変だろうし、大きな会社が倒産したり。洋服を含めて、自分にとって本当に必要な物ってなんだろう?ということを考える時間も増えた。今の現状の中で必要とされているもの作りってなんだろう?


それを考えていたら、西山徹がやっていることがすごく気になった。彼は小学校からの友人で、90年代から服を作り続けていている。「WTAPS」「DESCENDANT」「FPAR」など自身がディレクションを務めるブランドや国内外のブランドからの仕事のオファーも多い。いまだにたくさんのファンを抱えながら、その人たちが欲しいと思うプロダクトを作り続けている。機能性やデザインはもちろん、作り手の気持ちを含めて欲しいと思ってもらえるものを作り続けている西山徹のスタジオを訪れた。




「Scrap and Build」作ってまたそれを壊しちゃう そしてまた次へ



徹:パンデミックが起きて1年が過ぎたね。いろいろ変わったよね。会社のことを振り返ると、実はコロナに関係なく2019年の夏くらいから、会社の体制とか経営とかを含めていろいろやってきていたんだよね。これまで作ってきたことを一度解体して、新しくリビルドしてどうしていこうか?ってその頃から考え始めていたんだ。


ーそうなんだね、そう考えるきっかけが何かあったの?


徹:そう、その頃いろいろ大変な時期で。2019年の年末にみんなで集まって道玄坂で忘年会したでしょ。あの頃だね。そして年が明けたら今度はパンデミックでしょう。あの頃はウィルスの得体が知れなかったよね。スタッフのこともあったし、関連のショップはすぐに休業させてね。けど、商品を店舗で売ることができなくなくなって、すぐにオンラインに軸足を移して。それまでやっていた展示会もナシ、人を集めることはできないからオンラインでの受注会にシフトして。でもそれまでの方法をオンライン化するだけでは難しいことだらけで。いわゆる営業接待、ブランドの考える次シーズンの世界観を会場を使って見せることができないし、次シーズンのサンプルを手に取ってもらったり着てもらったりして直接商品説明することもできない。

それをオンラインというプラットフォームに移すことで何を変えていくべきで、何を新たに作るべきなのか?ということを考えて、従来からのテキストをはじめに、着画や映像を入れたりとこれまでになかったコンテンツを作っていくことになったんだよ。パンデミック有無にかかわらず遅かれ早かれこの先にやってゆくべきことではあったんだけどね。良くも悪くも状況が変化を促したんだね。あの時の状況下でただ待っているだけではなにも進まないんだよね。さあこれから誰がどうしていくのか?って考えた時に、やっぱり自分たちの価値観を大事に考えていかないといけないって思った。これまでだってずっとそう。自分たちの価値観っていうのがあって、それを元にずっとやってきたじゃない?だからそれを頼りにさらに今という環境で新しい価値観を作ってやろうって。以前からやっていたようにまた「Built to destroy」。そこから「Scrap and Build」てね。


ー徹なりに考えてシフトしたんだね。しかもかなり早い段階で。


徹:そうなんだよね、見直すきっかけだったのかもね。自分たちがやっていることの価値とか、付加価値ってなんなのか?って。とうぜん、卓たちがやっていることにも付加価値っていうものがあって。でも自分たちって、苦手だったじゃない。オレオレ、みてみて、みたいな。価値を売り込むというか、自分たちの環境だったのか価値を謙遜することが美徳というか。そういうところがあるんだと思う。


ーそうだよね、なんかそんなことをわざわざ口にしなかったし、そういうのってかっこ悪いなーって思っちゃってるところもある。なんだか照れくさいしね。


徹:そうそう、でもさ、そういうことはちゃんと言わないと伝わらないから、伝えないといけないんだなって思った。ほんと今更なんだけれど、笑。



ー俺たちも自分たちでウェブショップを始めて直接お客さんに販売するようになって、俺たちが作っている物の価値をどうしたらみんなに知ってもらえるのか?って初めて考えたんだよね。5000円のTシャツって決して安いものではないって俺は思っているから。どうしたらその値段を払っても欲しいなって思ってもらえるのか?ってこと。それってただ品質とかデザインだけではないって思うんだよね。   

 どういう気持ちで作っているのか?とか作り手のバックグラウンドには何があるのか?ってことを含めて買ってもらえるというか。やっぱりそれを考えた時に、もちろん服のクオリティやデザインもすごく良いんだけれど、今までにやってきたことを追いかけてくれて、それに憧れてくれて、賛同し続けてくれている人たちが徹が作る物を買ってくれているんじゃないかな?って。こういう考えで作った人の物なら俺も買いたいな、って。徹たちはそれをずっとやってきているでしょ?誕生しては消えていくブランドがある中で。モチベーションを保ってやり続けられていることって何かな?って思ったんだよね。


徹:そうだねー。なんかね、今までにやってきたことをあらためて振り返ってみると、10年周期にいろんなことを変えていたんだよね。意図的ではまったくなくてね。こうさかのぼって考えてみるとさ、それまでみんなで顔を合わせる機会も少なくなっていた時期に、久しぶりに顔を合わせるようになったタイミングがあったでしょ?あの時期って原宿に「Philosophy」ってお店を開いたころじゃない?ちょうどあの頃から10年のピッチでなにかを初めているんだよね。

「Philosophy」もお店をオープンさせて、その後にジンを出版したことを含めるとちょうど10年くらいなんだよね。それでそうやって作るとまたそれを壊しちゃうんだよね。飽きて壊すというか、次のフェーズに行くっていうか。別にそれを意識してやったわけでなく振り返ると10年周期でそうやってきたというのがあって。だからもしかしたら10年周期でモチベーションを変えているのかもしれないね。


ーそれはその時に店を閉じようとか、何か変えようって行動するの?


徹:そうそう。その先になにを目指すかってことを考えて行動するけど、変化を嫌う文化あるじゃない。それと自分たちの年齢も、だんだんそんな突飛なことに付いてきてくれる人たちも減っていくからね(笑)若いときはまわりの人に声かけるとさ、面白そうじゃん!って集まってくれたんだけれど。今は状況が違うからね(笑)

だからそういう意味では不自由になっていくけれども、物作りということに関しては、また別のところにモチベーションがあると思うし、その自分たちの付加価値を伝えたいという先がエンドユーザーになった。今は買ってくれているお客さんたちにしっかり届いて、その人たちからサポートを受けているって実感がある。



ー今はその伝える方法も増えたね。昔は雑誌で取材を受ければそれで伝えられたりしたけれど。取材やそのメディアの意図もあるから。いまはSNSでいつでも誰でもダイレクトに伝えることができるよね。


徹:そうだね。振り返るとジンがあったり、ブログがあった。ブログの時は定点観測で毎日のことを日記帳にしてやったんだよね。その方法も当時は効果的に働いたと思う。その頃、自社ウェブサイトってイマイチだったけれど、メディアプラットフォームでのブログやコマースってすごくよかったんだよね。それが今は自社プラットフォームだってなってるもんね。SNSも民主化されて発達したしね。ただ結構落とし穴もあるでしょ?サイクルが早いから。


ーそうだよね。インスタとかすごいスピードで流れてくるから。一日たったらその情報も古いものになってみんな忘れちゃうもんね。


徹:そうそう、劣化しちゃう。数で勝負みたいな方法はカラダが持たないから。だからひとつひとつのクオリティをどれだけあげていけるかってことが大切なんだよね。


ーいま「DESCENDANT」のウェブサイト内のFutureのところで(トミー)ゲレロと対談したり、最近思っていることとか書いているでしょ?あそこをメインにやっているの?


徹:そうそう。「DESCENDANT」、「WTAPS」、「FPAR」それぞれでね。「WTAPS」ではムービーコンテンツがスタートした。エビソードで。渋谷を歩いて昔のスケートボードの話をしたり。自分たちにとって新しいコンテンツで発信を始めたんだよね。



ーーー


幼なじみの徹。中学生の時みんなでスケートボードを始めて、放課後はあっちこっちと街中のスケートスポットを回ったり、スケートビデオや映画で見たバスケットシューズやMA-1のジャケット、リーバイス501を探してアメ横へも行った。そんな彼にこうしてインタビューという形で話を聞くのは初めて。話し口調も趣味嗜好も当時のまま。今では会社の経営者でもあり、いくつものブランドを運営しているけれど、「考えて行動する」ということに関しては毎日遊んでいたあの当時から変わらないんじゃないかな、と改めて思う。「変わらないことの中で変えたこと」徹の作る物や考えに賛同する多くのファンを魅了し続けている理由が見えてきた。





西山徹

1974年 東京出身。1993年、自分たちが着たい物をと「FORTY PERCENT AGAINST RIGHTS」を立ち上げる。その後「WTAPS」に改名。2004年にオープンさせた「Philosophy Store」のちに出版した「Philosophy Zine」では自身のバックグラウンドにも関わる書籍の販売や考えを言語化した冊子を出版し、多方面へと活動の幅を広げる。現在は「FPAR」を再開させ「WTAPS」、「DESCENDANT」のディレクターを務める。


text : Taku Takemura

photo : Taro Hirano


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